―― 水島精二監督が手がけている「機動戦士ガンダム00」(以下「ダブルオー」)は、アニメ作品の金字塔とも言える「機動戦士ガンダム」に連なるシリーズですね。「ガンダム」と言えば、10代から30代を中心に、50代までのファンを抱えるビックネームコンテンツです。
一つの産業を代表するような商品、トヨタで言えば“次世代のクラウン”の開発を任されたようなもので、栄えある抜擢と言えますね。ガンダムの監督として指名されたときのお気持ちはいかがでしたか。
水島 素直にうれしかったです。特に僕のような40代前半の人間は、第一作目の「機動戦士ガンダム」を見て育っている世代ですので。僕はそれほどガンダムシリーズに詳しいわけじゃないんですが、アニメの業界に入ったからには一度はガンダムに関わってみたいと思っていましたから。そういう人は多いと思います。
……でも今、実際に「では、あなたがやって下さい」と言われたら、躊躇する人は多いんじゃないかとも考えるんですよ。僕の所に話が来たのも、ほかに引き受ける人がいなかったからかもしれない、と。
今、ガンダムシリーズを担当するということは、名誉なことでもある一方で、反面、火中の栗を拾いにいくようなところもあると思うんです。
―― 火中の栗? どういうことなのでしょう。
ガンダムを“作る”ことは、作り手には「リスク」が大きい
今、ガンダムを作ることは、作り手にとって「リスク」が大きいんです。「ここまでメジャーになったタイトルは、それ故に、自分の自由には作れないだろう」というふうに、作り手側を身構えさせるところがあるのだろうなと。
これだけ大きな作品になると、ステークホルダーが多いですから、様々な会社の意向が入るし、その中で取捨選択を迫られる。元からガンダムが好きで、思い入れが強い人ほどやりづらいと思います。監督を任されても“俺のガンダム”が作れるわけではない。自分が描いてみたかったガンダムが、視聴者や会社が求めているものと違う言われ、ギャップを感じるのも、ガンダム好きとしては辛いところだと思います。僕などはガンダムにそこまでの思い入れががなかったので、かえってよかったのかもしれません。
―― ガンダムファンからのプレッシャーを感じますか。
今のガンダムの作り手は、お客さんに「ガンダムはそうじゃないんだよ、今作のガンダムはダメだ」というのをずっと言われ続けるわけです。
―― なるほど。先ほどの“次世代のクラウン”というたとえ話で言えば、クルマの世界でも、看板車種のビッグネームの跡継ぎゆえに、モデルチェンジは難しいでしょうからね。前のモデルと全く違うじゃないか、前のほうがよかったと、新型モデルを出す度に、以前からのお客様からはおしかりを受ける、ということですね。
「売れているもの」には脊髄反射的なアンチがいる
それだけ作品が大きくて、寄せられる期待が高いということなんでしょうけどね。
批判でも、種類があると思うんです。それこそ“クラウンへの期待”みたいな、「もっとこうして欲しい」という声ならばむしろ積極的に聞きたいのですが、一番最初に僕ら制作スタッフに聞こえてくる声はそうじゃないですね。
「何だあれ」とか、「かっこ悪い」とか、“脊髄反射”みたいな反応なんです。
―― 脊髄反射だなと思うのは、どんなところですか
なんと言いますか、作品を見て批判をしているわけではないんです。フィルムを観て物語を追おうとしているのではなく、絵だけを追って、見た目だけで批判をしてくるのですね。
特に今、ネットで評判が広がるのがすごく速いでしょう。叩くにしても褒めるにしても「こう言えばいいんだ」というポイントが提示されると、あっという間に広がっていく。
叩きたい人たちは、最初から「嫌い」というベクトルを持って入ってきて、ネットの中で自分と同調できる「嫌い」ポイントを探して、“叩きの流れ”に乗っかっててくるから、もう仕方がないんです。
―― ネットの評判は意識しますか。
そうですね。意識している作り手の人は多いでしょうし、そういう意味では、ネットの“叩き”が作る側のモチベーションを下げているのは間違いないと思います。
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「正義」への欲望が「匿名の正論」を暴走させる